いま、在日コリアン社会は大きな転換期にあります。1世・2世から3世・4世へと世代交代が進むなかで、国籍、民族、価値観などがますます多様化する傾向にあります。もちろん、こうした多様化が、戦後の朝鮮半島における分断と対立、日本政府による差別・同化政策のなかで進行してきた点を看過してはなりません。
植民地支配と東西冷戦という歴史を背負いながら生きてきた私たち在日コリアンは、これまで国家の利害の狭間に置かれ、「北か、南か」「祖国志向か、在日志向か」「民族か、帰化か」などの、さまざまな二項対立的な範疇で自らを語ることを余儀なくされてきました。しかし今、私たちはそうした範疇を乗り越え、国家の境界に生きることを「肯定的」に捉えることで、より豊かなアイデンティティを創造しようとするものです。
在日コリアンは、文化的かつ血縁的なハイブリッド(異種混交)性と海外コリアン560万の一員であるディアスポラ(離散)性を兼ね備えています。こうした特徴は、むしろ国家にとらわれない多元的で柔軟な視点を形成し、創造的なエネルギーを生み出す、かけがえのない資産とも言えるのです。
私たちは、境界に生きていることで、既存の価値観にとらわれない斬新な視野から日本と南北コリア、そして東アジア全体に関われる存在です。こうした在日コリアンの特徴を最大限発揮することは、東アジア全体の新しい秩序形成に向け、多様な人的ネットワークを生み出す重要なカギのひとつであると考えます。 |
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いまや、在日コリアンの未来を構想するときに、日本社会で自己完結する思考と行動様式だけでは不充分であり、21世紀の時代潮流に照応し、「地域に根ざし、祖国に参加し、世界に連なる」重層的で開かれた思考と行動様式が必要とされているのです。また、そのために日本による過去の朝鮮植民地支配の清算が、誠実になされなければならないことは言うまでもありません。
現在、在日コリアン社会では国家と個人との関係性の再考を迫る機運が生み出されています。こうした動きは、「自立した市民」層を輩出する新しい時代条件を準備しているとも言えます。今後在日コリアン社会は、地域別、課題別、職能別などの、いわば多様な利害と価値観を軸にした、より「水平的」な社会へと変化していくでしょう。
こうした在日コリアン社会の変化とニーズに柔軟かつ機動的に対応する運動と組織の受け皿としてのNGOが、在日コリアン社会の内的欲求として求められています。私たち民族教育文化センター、在日韓国民主人権協議会、ワンコリアフェスティバル実行委員会は、それぞれの活動が、個別に存立するのではなく、相互補完的な連携と協力関係を一層深めることができれば、より多くの人々のニーズに応えられるとの総括を共有するにいたりました。そのうえで、この時代の要請にチャレンジするために、これまでの活動経験とネットワークを束ね合わせ、三団体を母体にした新たな在日コリアンNGO―特定非営利活動法人コリアNGOセンターを結成することに合意しました。 |
私たちは、ミッションとして、次のことを掲げます。
第一に、次代をになう子どもたちを中心に在日コリアンの民族的アイデンティティと自尊感情を育むための民族教育権を確立するとともに、多民族・多文化化が不可避な21世紀の日本社会にあって、マイノリティの人権を保障し、民族的・文化的差異を尊重しながら対等な関係性を構築する多民族・多文化共生社会の実現をはかります。
私たちは、民族教育の原点である1948年の4.24阪神教育闘争の意志を引き継ぎ、民族学級の現場で実践を積み上げてきました。子どもたちは民族学級の現場で民族と豊かに出会い、仲間たちとともに学ぶことによって、自己の民族的アイデンティティを確立し、「生きる力」を日々育んでいます。その中で、自己実現をはかり、自分のルーツを見つめ、在日コリアン社会とどのようにつながっていくかを模索しています。子どもたちに民族教育を保障することは、個人のアイデンティティの確立や自尊感情を育むだけでなく、在日コリアン社会の土台を作っていく意味でも、とても大切なことなのです。
また、民族学級の実践は、在日コリアンの子どもたちの人権確立のみならず、傍らで共に学ぶ日本の子どもたちに対しても、等身大で実感のある朝鮮半島とのつながりの機会を広げてきました。
しかし、民族教育に対する制度保障は不充分なままです。日本社会における真の共生を考えるうえにおいても、東アジアの平和共存の時代を切り拓くうえにおいても、在日コリアンの子どもたちにとって、よりよい社会環境を創っていくことの重要性は言うまでもありません。そのためにも、民族教育の保障は、必ず実現しなければならない最重要課題です。
また、日本社会においては、グローバル化の急速な進展と人口減少の時代を迎えるなか、移住労働者をはじめとする在日外国人が、ますます増大する趨勢にあります。在日コリアンの人権確立は、すべての在日外国人の人権保障を視野に入れて、取り組まれるべきです。そうしたなかで、共生社会の実現を基礎づける法制度の確立と意識の変革が、緊要な課題として求められています。
第二に、各界各層の在日コリアン団体・個人との交流・協力関係を活性化し、在日コリアン社会の豊かな社会的基盤を創造するとともに、南北コリア及び、とくに東アジアに居住しているコリアンとの間で交流をすすめ、コリアン・ネットワークを構築します。
在日コリアンの一人ひとりが、より自由に、平等に、豊かに生き、活躍することができる環境やフィールドを広く、深く創っていくためには、当事者であるコリアン同士の連携と協力関係が、何より重要です。 |
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今後の在日コリアン社会の輪郭は、旧植民地出身者とその子孫である特別永住者の減少、日本国籍をもつ「帰化」者及び国際結婚による「ダブル」の急増、「ニューカマー」韓国人の増大に特徴づけられます。私たちには、在日コリアンの概念を広げ、こうした人々との関係を丁寧につなげ、ネットワーク化していく実践が求められています。
また、教育や人権、統一と文化の分野で専門性を持って取り組んできた私たちの活動を土台として、さまざまな既存の民族団体と、これまで積み重ねてきた連携をより深めていくことが必要です。
一方、20世紀の歴史が生み出した海外コリアン560万は、グローバル化が進展する21世紀には、文字通りグローバルな存在として、重要な役割を果せるでしょう。海外コリアンの大多数が周辺大国である日本、中国、ロシアおよび朝鮮半島に大きな影響力をもつアメリカに集中していることを考えるとき、その重要性はますます増大しています。いま、海外コリアンによるコリアン・ネットワーク構築の機運が高まっています。
第三に、南北コリア・日本間の市民、NGOの交流・協力事業を展開し、南北コリア・日本の市民社会の相互発展に寄与します。
東アジアにおいても人権、平和など一国だけでは解決できない課題が大きく浮上するなかで、その解決主体として国境を越えた市民社会の成熟が不可欠となっています。
とくに、韓国と日本では90年代以降の市民運動の成長に見られるように市民社会が大きく成長しており、今後その役割は一層重要となっています。
こうした韓日間の市民、NGOが、相互理解を深め、国境を越えた市民社会を形成し、協働関係を強めることは、いまだに植民地支配とアジア侵略の歴史の総括をアジアの人々と共有することができない日本社会のあり方を変えていく力となっていくでしょう。
同時に、南北コリアの平和・統一、民主主義・人権の実現など多様な分野で拡大しつつある市民、NGOの協働は、南北コリアと日本の市民社会の発展に寄与するものにとどまらず、東アジアの平和共存を実現するための牽引車の役割を果たすことになるでしょう。
私たちは、こうしたミッションに沿った重層的な活動を通じて、21世紀の時代に不可欠な「人権」「民主主義」「自立した市民」の理念のもと、究極的には、南北コリアの統一と国境を越えた東アジアにおける豊かな市民社会〜開かれた地域主義としての「東アジア共同体」〜の形成に寄与します。 |